蕾の妖精たち
 翠川は電話の電子音によって、叩き起こされた。

 確実に目が覚めるように、古臭いブザー音を設定していた。


「もしもし……、翠川ですが」


「舞子です!」


「どうしたのですか」


「大変なの! バスが1台、横転して斜面から谷へ転落したのです」


「何だって!」


「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい……」


「榊先生。謝っていては分かりません。落ち着いて下さい」


「……ごめんなさい。取り乱して。落ちたのは、貴方のクラスだったバスなの」


「……それでは榊先生も、転落したバスの中に?」


「いえ、それが先生達の間で、気分を変えようと言うことで、違うクラスのバスに乗っていたのです」


「そうでしたか」


「でも、上島先生が……、それに生徒達がまだバスの中にいます。炎上して……」


「警察は? 救急車は?」


「連絡は取りました。一番近い山の麓の民家までバスを走らせて、電話を使わせて貰いました。私は、今から転落現場に戻ります。無事だった残りのバスは、予定通り帰宅させています」


「わかりました。教えてくれて、ありがとう」


 翠川は相川幸乃の手紙を自宅に残したまま、急いで飛び出した。


 その後すぐに、また電話が鳴ったのだが、翠川が気付く芳もなかった。
 

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