蕾の妖精たち
 翠川孝之は丘の上から、懐かしい町並みを眺めていた。

 夕日が染める町並みは、翠川の記憶とたがわぬ、素晴らしい美しさであった。


「孝之ーっ」


 舞子は翠川を見付けて、思わず叫んだ。

 走ってきた舞子は、翠川の無事を確かめると、そのまま体を預けた。

 草むらに倒れ込み、二人の息遣いは荒く、唇を重ね合った。

 抱き締め合い、体を求めた時、しかしそこで、翠川の行為が止まり、舞子を遠ざけた。


「……何で? どうしてなの?」


「すみません。ご心配をお掛けしました」


 翠川は静かに言った。


「何があったか、話して下さるわよね?」


 翠川は草むらから起き上がり、膝を抱える。

 舞子は膝を崩した。


「僕はね……過ちを犯したのです。ここで、とんでもない過ちを」


「いったい……、何を?」


「彼女、相川幸乃は生きていました。帰りのバスに乗らずに、キャンプ場の倉庫に隠れていましたよ。ですがね、彼女はクラスからいじめを受けていたのです。担任の僕すらも、全く気付かなかった事実です」


「……イジメ?」


「だから彼女がバスに乗らなくても、クラスメートの誰も先生に伝えなかった。むしろ置き去りが愉快だった」


「そんなこと……」

 


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