蕾の妖精たち
「インターネット上に、クラスの掲示板がありましてね。学校の共用パソコンを使用して、生徒の一人が密かに設置したものらしいのですが、幸乃がその掲示板の存在を教えてくれました」

「インターネットの掲示板?」

「そうです。そしてそこには、建築現場で起こった僕と幸乃の関係の書き込みがあって、その事実を知ったクラスメートから、幸乃が妬まれてしまったのです」

「女子校ゆえの、男性教師に対する独占欲かしら」

「いえ、それだけではありません。よく見ると、完全に幸乃を標的にするような書き込みがあります。煽っていたのはたった一人……」


「煽っていた人……」


「建築現場の書き込みは、学校関係者でしか、まず知り得ないのです。ましてや学校の汚点となる僕と幸乃の関係です。当事者を除いて、知っていたのは三人」


「三人……」


「学長、理事長……、そして、舞子さん、貴方です」


「えっ!」


「舞子さん、貴方は同じことを四年前にも行っている」


「……!」


「相川幸乃が強姦された事件。あの時の情報も、貴方が流した。お陰で彼女がどうなったかは、お分かりでしょう」


「……」


「貴方は目撃した筈です。僕が犯した過ちを」


「やめて」


「四年前のことです。それは、この場で起きた……」


「お願い……。言わないで。聞きたくない。……やめて、聞きたくないよ」


 舞子は苦しそうに耳を塞ぐ。


「僕は相川幸乃を一旦は助けた。斎藤和志から。しかし、その神々(こうごう)しいまでの相川幸乃の姿に畏怖しながら、今度は僕が彼女を奪い、抱いた……」


「……やめて」


「彼女も僕を求めていた。確信したのは、彼女と再会して、僕が再び彼女を建築現場で抱いた時でした」


「……」


「四年前の強姦事件の時、その僕に抱かれていた彼女が、つぶさにその様子を伺っている貴方の姿を、僕の肩越しから目撃しているのです。そう、舞子さんのことを……」


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