蕾の妖精たち
「……これは、どういうこと!?」


 舞子は何も書かれていない便箋を、何度も何度も見返す。

 封を開けた封筒を覗き込み、逆にしても、何も落ちてこなかった。


「孝之っ、これはどういう意味よ! 憐れな私に掛ける言葉など、何もないってことなの?」


 舞子は便箋を握り締め、大粒の涙を落とした。


「……これが、貴方が私に対する仕打ち……、罰なの……ね?」


 便箋の線が滲んで見える。


「最期まで、私に声を掛けて下さらなかった。私は……、私は……悔しい」


 しわくちゃになった便箋を、丁寧に広げ、舞子は心を鎮める。


「そうね……孝之、貴方はこの何も書かれていない便箋のように、しがらみのない人でしたわね」


 シワというシワを、舞子は丹念に延ばす。


「羨ましかったの。私には無いもの。そしてそれは、私の憧れ……」


 シワがなくなると、何も書かれていない便箋が、舞子に向かって、何かを語り出した。

 
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