蕾の妖精たち
 翠川孝之は誰もいなくなった教室に戻り、教壇に立った。

 綺麗に並んだクラス全員の机を見渡すと、何かが込み上げてきた。

 生徒たちの笑顔、笑い声が聞こえる。

 共に流した汗が、熱き想いを募る。

 そして、涙。

 幸乃が流した涙が、頬を伝う涙が、翠川の目に映る。


「……うっ、うう」


 翠川は教壇の陰に崩れ落ち、むせび泣いた。


 もう、彼等はいない。

 どこにもいやしない。


「青春という輝かしい日々を、結果的に、彼等から奪ってしまった。僕は取り返しのつかないことを、してしまったんだ」


 一気に言葉を絞り出すと、翠川は握り締めた拳を、何度も何度も、床に叩き付けた。

 骨がぶつかる鈍い音がした。

 皮膚が破れ、擦ったような血の跡だけが、残る。

 しかし、彼等の流した血は、こんなものではなかった筈だ。


 翠川は、何度も何度も同じ様なフラッシュバックに遭遇する。

 あまりにも鮮烈なそれのせいで、頭が割れそうになった。
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