蕾の妖精たち
 全ての始まりは、その時をおいて、他になかったのだ。


 草むらの陰に横たわり、蒸せるような抱擁を交す男女の姿が、偶然にも自転車で下っていた翠川の目に入った。

 いや、見えるのは殆んど男の背中で、女の白い脛が、男の脇腹から巻き付いていた。
 白い足首には、女のものと思われる下着が、しわくちゃに溜っていた。


「夏色模様を、貴方に」


 気まずく目を逸らすと、そんなキャッチコピーの錆びた看板が、ポツンと設置された汚れた電話ボックスに寄り添うように立っている。

 それは、もう何処にも見掛けないメーカーのサイダーを、未だに宣伝していた。


 ウチの大学の学生か? 、そう翠川は思った。


「全く……」


 看板の横を通過し、先程までの爽やかな気分が消え、息苦しくなった。

 この丘を、たぎった男女の情などで、汚されたくはなかった。


「全く、どうなっているんだよ」


 しかし、様子が変であった。
 女の掌が、近付く男の顔面を必死に押し戻している。

 そのか細い両手を男は力で組み敷き、顔面を女の体にうずめた。

 その瞬間である。

 翠川は、組み敷かれていた女の顔がかい間見えた。

 少女であった。

 そして、大学に隣接している見覚えのある女子高の制服が引き裂かれ、盛り上がった白い肌が、激しく呼吸をしていた。

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