ダンデライオン
忍兄ちゃんが私を見つめてきた。

「アサちゃんと過ごした思い出を忘れたことなんて、今まで1度もなかったよ」

忍兄ちゃんの唇から吐き出されたその言葉に、私の心臓がドキッと鳴った。

「たとえどんなに小さな頃でも、好きな女の子と過ごした思い出を俺は覚えてる」

好きな女の子って、私のこと?

「アサちゃんと結婚の約束をするずっと前から、俺はアサちゃんのことが好きだった。

将来はアサちゃんと結婚するんだって、子供の頃からずっと思ってた」

「忍兄ちゃん…」

忍兄ちゃんの手が、私の頬に添えられた。

当たり前だけど、忍兄ちゃんの瞳には私が映っていた。

「――そんな昔から、私のことを好きだったの…?」

私、何にも知らなかった。

忍兄ちゃんが私と結婚したいと言ったのは、子供の頃に遊び半分で交わした約束を真に受けたからだと思っていた。

だけど忍兄ちゃんは、それよりもずっと前から私と結婚したいと思っていた。
< 149 / 360 >

この作品をシェア

pagetop