ダンデライオン
「はい、わかりました」

俺は逢坂さんに頭を下げた。

「大事な話は急いで決めない方がいいからね」

「はい」

「じゃあ、後はよろしく頼んだよ」

「お疲れ様でしたー」

逢坂さんが奥の方へと消えて行った。

後のことを任された俺は彼の姿が見えなくなると、息を吐いた。

昨日、麻子に京都にある料亭『富士崎』で修業をする話を切り出した。

芸能人や政治家もお忍びで来店すると言うあの名店で修業ができることは、板前冥利につきることだ。

だけど、そのためには婚約者である麻子を犠牲にしないといけない。
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