ダンデライオン
麻子が俺と一緒に京都へ行くことは、彼女の実家である花屋『たんぽぽ』と彼女の父親をここに残すことになってしまうのだ。

『富士崎』での修業の話を断ったら、子供の頃からの夢であった板前の道を閉ざすことになってしまう。

憧れの『富士崎』での修業と婚約者の麻子。

『富士崎』で修業がしたい。

そのためには麻子と離れて京都へ行かないといけない。

麻子と離れたくない。

そのためには『富士崎』での修業の話を断らないといけない。

――朔太郎、京都へ行っちゃうの?

昨日の麻子の言葉が頭の中によみがえって、俺は頭を抱えた。

悲しそうな顔の麻子とここを出て行った彼女の後ろ姿を忘れることができなかった。
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