ダンデライオン
だけど、現実は思い通りに行かないと言うことはわかっている。

麻子には、父親のことと店のことを考えなければいけない。

「じゃあ、アサちゃんに素直にそう言えばいいじゃない。

俺と一緒に京都へきてくれって、そう言えば簡単じゃないか」

浅井さんはそれのどこがおかしいんだと言う顔をした。

「…それは、言えません。

と言うよりも、麻子には俺と同じ思いをして欲しくないんです」

そう言った俺に、浅井さんは首を傾げた。

「俺、板前の夢を父親に反対されていたんです。

父親は男が料理なんてみっともない、料理は女の仕事だって言う…その、昔気質の考えの持ち主だったんです」

それは麻子にも、誰にも話したことがない昔話だった。
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