ダンデライオン
そんなことが言えるなら、もうとっくの昔に問題は解決している。

浅井さんにそう言い返したかったが、言い返すことができなかった。

言い返せなかったのは、俺の中でまだ迷いがあるからだ。

浅井さんは自分の夢を犠牲にしてまでも、麻子を選ぶと言った。

じゃあ、俺は?

俺は、一体どうしたいって言うんだ?

板前の夢を捨てたくない。

麻子から離れたくない。

どっちも思っている自分に対し、麻子を選ぶと言った浅井さんが素直にうらやましいと思った。

「閉店準備にきて悪かったよ」

浅井さんが椅子から腰をあげた。

「最後にこの問題に答えを出すのは、君とアサちゃんだ」

「あ、浅井さん…」

浅井さんが俺を見下ろした。
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