ダンデライオン
私を見つめる瞳と私の名前を呼んだ忍兄ちゃんに、私はただ戸惑うことしかできなかった。

「本当は今すぐ板前見習いからアサちゃんを奪いたいって思ってる。

板前見習いとアサちゃんが別れればいいのにって、そんなひどいことを思ってる。

だけどアサちゃんが傷つくところだけは見たくない」

忍兄ちゃんの顔が近づいてくる。

「できることなら幼なじみの関係を早く終わらせて、恋人になりたいんだ」

忍兄ちゃんがそう言ったかと思ったら、
「――ッ…」

私の唇が、何かに触れた。

えっ…?

私、忍兄ちゃんとキスしているの…?

私の唇に触れているのは、忍兄ちゃんの唇以外の何ものでもない。

その証拠とでも言うように、彼の唇からさっき食べていたマンゴーの味がした。
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