ダンデライオン
「アサちゃんが小学3年生で、俺が中学2年生の時だっけ?」

忍兄ちゃんが言った。

「…そう、だったかな?」

忘れる訳がないじゃない。

その年はいろいろなことがあり過ぎた年だったから、忘れる方が間違っている。

「私、全然覚えてないや。

何かあったかしら?」

そう言った後、私は忍兄ちゃんに笑いかけた。

思い出したくないから、忘れたフリをした。

いつか見た悪夢が、私の頭の中によみがえる。

バケツをひっくり返したようなどしゃ降りの雨。

私の足元に広がっていた鮮血。

――やめてよ…。

思い出したくないから、やめてよ…。

忘れたいから、やめてよ…。
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