ダンデライオン
「――アサちゃん」

忍兄ちゃんに名前を呼ばれたと思ったら、私のあごに彼の指が添えられた。

華奢で細い指によって、私の顔があげられる。

「ごめん、思い出させたくなかったよね」

忍兄ちゃんの瞳には泣いている私の顔が映っていた。

私、泣いていたんだ…。

「アサちゃんにひどいことを言って悪かった」

忍兄ちゃんの指が私から離れた。

彼の指は離れたはずなのに、それまで触れていた私のあごが熱を持っていた。

私は熱を持っているあごを隠すように両手で挟むようにおおった。

「アサちゃん?」

私の名前を呼んだ忍兄ちゃんに、
「…帰ろう、明日も仕事があるんでしょ?」

私はそう言った後、彼の前から逃げるように歩き出した。
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