おじさまと恋におちる31の方法

彼は頬杖をつきながら、紗江を見定めするように視線を滑らせる。

そして、あっさりと一言放った。


「参考にならないかもしれないねえ」

「えっ」

今更の思いもよらない答えに、紗江は目を大きく開いた。
飯村が続ける。


「お嬢さん、恋愛経験少なそうだし。友達にアドバイスするような性格でも無さそうだし」

「…そりゃ、まあ、そうですけど」

紗江は唇を尖らせた。ある意味図星に近い。
彼は焦ることもなく、紗江へふんわりと微笑む。

「でも僕が楽しいから、いいの」と。


「…楽しいんですか?」

「あれ、お嬢さんは楽しくないの?」


紗江の視線が、手元のパンケーキへ落ちる。

正面の彼を見なくても分かる。
飯村はきっと、試すような、悪戯じみた笑顔でこちらを見ているのだ。

彼女はそのくすぐったいような視線に耐えられず、けれどどうも甘い言葉を素直に口にすることも出来ず、困った挙句にボソリと呟いた。


「……とりあえず、警戒心は無くなりました」

「そう。上等上等」


彼はカラカラと笑った。


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