夏のわすれもの
「ねえ!」

そう叫ぶように言われかたと思ったら、彼女に両肩を強くつかまれた。

突然のことに、俺はどう対応したらいいのかわからない。

肩をつかんでいる本人の顔は、今にも泣き出しそうだった。

「あの人の心の中には、誰がいるの!?」

「周さん、落ち着いて…」

彼女が好きなのに、こんなことしか言えない自分が悲しい。

けど、今にも大声をあげて泣き出しそうな表情をしている彼女に俺は何も言えない。

陣内をまっすぐに思っている彼女に、何も言えない。

あいつの心の中に“あの人”がいても、彼女は思い続けている。

陣内に冷たい態度をとられても、彼女はまっすぐに彼を思い続けている。

俺が入る隙間は、そこにはなかった。
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