夏のわすれもの
顔の半分が隠れていても、彼女の美しさは変わらない。

むしろ、それが彼女を引き立たせていると言っても過言ではなかった。

「こんにちは」

俺があいさつをすると、
「こんにちは」

彼女が俺にあいさつを返してきた。

「ご旅行ですか?」

彼女がそんなことを聞いた瞬間、俺の頭の中に去年の夏の出来事が浮かんだ。

海岸で彼女と出会ったこと。

そこで彼女の帽子を拾ったこと。

映像のように、頭の流れ流れてきた。

「藤堂さん?」

その声にハッと現実に戻ると、心配そうな彼女の顔があった。
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