夏のわすれもの
サラリと潮風に乗って揺れる赤茶色の髪が去年の出来事を思い出させようとする。

「大丈夫ですか?」

そう聞いてきた彼女に、
「…大丈夫ですよ」

俺は笑いながら答えた。

何が大丈夫なんだか。

過去の出来事に浸っていた自分に、心の底から呆れた。

「社員旅行なんですよ」

話を繋げるために、俺は言った。

「社員旅行ですか?

それは楽しそうですね」

フフッと上品に笑っている彼女はお嬢様だった。

「周さんも旅行ですか?」

そう聞いた俺に、
「そうよ」

彼女は答えて、ニコッと唇の端をあげた。
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