嘘つきな背中に噛み痕をアゲル。
「どどどど、どうしちまったんですかね、幹太さん」
まるで自分が言われたかのように、咲哉くんが驚いている。
美麗ちゃんまで真っ赤な顔で口を開いたままだ。
唯一救われたのは、おばさんとおじさんが居なかったことぐらいかな?
「で、桔梗さんの御答えは?」
咲哉くんが、手をマイクを持つ形に添えて近づける。
「う、うるさい、馬鹿っ」
スコーンと良い音がした咲哉君の頭を、凝視しつつ、その場を動けなかった。
真っ赤になっていく顔は正直なのに。
冷たくなっていく心は、――嘘つきだ。
言わない背中を憎いと思っていたのに。
伝えてきても腹立たしいんだもの。
言い逃げして、背中を向ける幹太に、噛みつきたい。
噛みついて噛みついて、私の痕を付けてしまいたい。
それでも、私の指には今も、晴哉がくれた指輪を光らせて、笑っていたい。
この矛盾は、深海の様な真っ黒な夜みたい。
上に泳いいたつもりでも、下に泳いで迷子になっていく、深海の夜。