嘘つきな背中に噛み痕をアゲル。
「咲哉くんは好きな子とか居ないの?」
暖簾からちょこんと此方を覗いてきた咲哉くんに手招きしてみる。
奥では私たちを怒る余裕もまいぐらい幹太が一人で切り盛りしているのを良いことに、今日もワックスでばっちり固めた頭を幹太に叩かれて深く帽子を被っている咲哉くんは、真剣に悩んでいる。
「うーーん。俺、桔梗さんみたいな美人で豪快な人はちょっと話すの緊張するし、でも美麗さんみたいに、こう、控え目な可愛い人は何を話していいか緊張するし」
結局緊張するのかという突っ込みは胸の中に仕舞っておこう。
「咲哉くんなら、うちの妹とか歳が近いから話しやすいかな」
何気なくそう言った美麗ちゃんに、私と咲哉くんは溜息を吐く。
「分かってないわね」
「分かってないっすね」
この咲哉くんにもバレバレなんだから。