嘘つきな背中に噛み痕をアゲル。
「何をボーっとしてんだよ。おばさんが居るなら帰ってこいよ」
「げ」
細かい男が、わざわざ私のサボりに嫌みを言いに来やがった。
白い作業衣の幹太が、私の視界に朝日の様に自然と映り込んくる。
「今から店に戻ろうとしてたの。お母さんの入院の準備とかあるし」
「入院……。そこまで悪かったの気付かなかったのか」
片手で晴を軽々と抱っこしながら、幹太は眉を寄せる。
うちの親が足が悪くなってたのは、もう何年もまえから皆知ってたくせに。
「晴一をちょうだい。お義母さんに渡してくるから」
「――ああ。ちょっと腹に湿疹できてたぞ」
私に手をいっぱい伸ばしてくる晴を受け取りながら、お腹を確認した。うっすらざらざらしてはいるけど、見た目ではそこまで酷くない。良く気づくよね。
私だって、見落としそうなことも幹太だけはしっかりその眼で捉えているんだ。
晴を隣に渡して、幹太の元へ戻ると、幹太は桔梗に花の前で腕組みして花を見ていた。
その眼は、空に浮かぶ三日月のように鋭いのに、やさしくほんのりと暗闇を照らす淡い月の光の様だ。