嘘つきな背中に噛み痕をアゲル。
「意地でもないし、見栄でもないし、人の意見に左右されているわけじゃないの。価値観なんて、人それぞれだし。……うん。美鈴ちゃんのお陰でなんか少し、突っ掛かってたものが剥がれ落ちてきた」
晴哉の話を持ち出せば、美鈴ちゃんが黙ってしまうと分かっていたから言いたくなかったけれど、この話は晴哉が一番関わって来るから避けられない名前だった。


「幹太は、貴方が家の跡取りだからとか、年齢とか好みとかで冷たくしたんじゃないよ。私だけ思うからってのも違うと思う」

「でも、貴方が好きだなんて一目瞭然だもの。気を持たせないではっきり関係に名前を持たせたらいいんじゃないですか」

「確かに、結局はそうなるんだよね」

逃げてきた。
聞かないフリをしてきた。
言わないで黙って守って行こうとしている馬鹿も居た。

狂ってしまったのは、お互いに視線を外していたからだ。

太陽を見上げて、美しい桔梗を咲かせてくれてことに感謝する月。
絶え間なく温かい温もりに包まれて、夜は目を閉じて眠って月を見ない花。
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