【続編】2月14日の同窓会

「ただいまー」

 インターホンに向かって言うと、玄関の鍵が開く音がした。

「おかえりー!」

 玄関から飛び出してきた母さんは、僕が想像してたより若々しかった。

 寡黙な父さんも玄関のマットの上で僕を見つめて、片手を上げた。

「長旅で疲れてるんじゃない?」

「大丈夫、家に入ろう、風邪引くよ」

 母さんの肩を抱いて、久しぶりの我が家に入った。

 家の中は僕が出て行く前とほとんど変わっておらず、目に見える変化といえば、テレビが大きくなったことくらいだ。

 八年も経てばもっと変わってると思ったのだが、案外そうでもないらしい。

 久しぶりに母さんが作った朝食をとり、家族団欒の時間を過ごした。

 なんの変哲もない日常がこんなにも心安らぐものだったのか、と一度離れてわかった。

 その夜、父さんと酒を酌み交わし、八年間のフランスでの生活を話した。

「フランスは楽しいか?」

「まあそれなりに充実してるよ」

「たまには、こっちに帰ってこいよ」

「うん」

「母さんが寂しがるから」

「うん」

 答えながら涙が出そうになるのを堪えた。

 年をとって涙もろくなったのか、父さんに心配されるとなんだか泣けてくる。

 久しぶりに愛情に触れたからだろうか。

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