緑の扉と遠い過去
いつもの事とはいえ、重苦しい雰囲気に包まれた車内でそれ以降会話が交わされることはなかった。

代わりにラジオから聞こえてくる流行のヒット曲が妙に疎ましく聞こえて仕方がなかった。

そんな家族を乗せて車は長いトンネルを潜り、それを抜けると辺りの風景は一変して緑に溢れた世界となった。

道の幅も次第に狭くなり時より前方から向かってくる車をかわすのにも気を使う作業となる。

そんな道を進とようやく祖父母らが暮らす小さな集落が見えてきた。

「…着いたぞ」

ぶっきらぼうな言い方で父親は車を止めた。

「いいか、じいちゃんやばあちゃんの前では心配するからくれぐれも不満そうな顔をするんじゃないぞ」

「…分かってるよ」

車を降りてから釘を刺すように令二に一言告げ、父親は玄関先から家の中呼び掛けた。
< 4 / 6 >

この作品をシェア

pagetop