英雄の天意~枝葉末節の理~
 奴隷商人はナシェリオに目を付け、人々が寝静まった深夜に行動を起こした。

 その夜はいつもと違う空気に眠りが浅く、勝手口の戸がゆっくりと開く音を聞き逃さなかった。ナシェリオは独り身ということもあり、常に剣を近くに置いている。

 奴隷商人はよもや優男に見えた相手が武器を扱えるとは考えていなかったのか、脅迫のために手にしていた短剣を容易く弾かれ首もとに突きつけられた切っ先に肝を冷やし、震えておぼつかない手足を必死にばたつかせて逃げていった。

 このときほど鍛錬を続けていて良かったと思った事はない。

 危険はどこにでも存在する。

 しかし、旅をするという事は危険の中に飛び込むという事だ。

 ましてやドラゴンに立ち向かうなど、人同士の争いのような解りやすい恐怖や危険とはほど遠い。
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