英雄の天意~枝葉末節の理~
 ナシェリオはゆっくりと近づき占い師を見下ろす。

 女はそれに動じることもなく、水晶にかざした右手を愛おしげに流した。

「貴方の瞳はとても深い海のように揺らぎ、曇り空のように鈍く光を映し、引き裂かれるその哀しみに身を委ねている」

「──っ」

 全てを見透かしたような口振りに嫌悪を募らせ、苦い記憶に胸の痛みを呼び覚ます。

 あの出来事を知っているはずがない。

 なのに、どうしてこの女は私にそんな瞳を向けるのか。

「あなたはこの世に善き者か否か」

 わたしはそれを見定めなければならない。

 静かに見上げる瞳に心を覗かれる感覚を覚え整った面持ちを苦痛に歪める。

「──黙れ」

 未だナシェリオを苦しめる記憶に息を切らせ、かろうじて手に持つ手綱が彼の体を支えていた。
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