英雄の天意~枝葉末節の理~
「あなたは英雄になるべくしてなされた者です」

「そんなはずはない」

 英雄となるのは私ではなかったはずだ。

「自らの価値に気付かなかったからこそ、その胸の内にある衝動を抑え込んでしまったからこそ、あの運命にならざるを得なくなったと何故、わからないのです」

「……黙れ」

 もううんざりだ。私をもてはやすのはやめろ。

「例えあなたが望んでいなくとも、あなたはその器を有してしまった」

 否定し、拒絶を続けた結果がこうなったとはどうして思わないのです。

「黙れと言っている」

「あなたを苦しめているものこそが天意だとしたら──」

「黙れ!!」

 脇にある剣を抜き、薙ぎ払うように走らせた刃は透けてゆく女の姿を捉えることは適わなかった。
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