英雄の天意~枝葉末節の理~
◆五ノ章

*許容の領域


 遠ざかる影に溜息を漏らし剣を仕舞う。

「なんであんなことをしたんだ」

 ようやくの落ち着きを取り戻したラーファンは戸惑うようにつぶやいた。

「そうしなければこちらがやられていた」

 あの男たちの言葉を聞いただろうにまだ解ってくれないのかと、ナシェリオはやや苛つきながらもそれが表情に出ないように慮(おもんばか)った。

「解っているのか!? 相手を斬りつけたんだぞ。怪我をさせたんだぞ!?」

 思わず声を張り上げる。

 臆病でいつも隅っこに隠れるようにしていたナシェリオが突然、名も知らぬ兵士に斬りかかりこれを追い払った。

 思いもしない出来事に驚き、ずっと傍にいた自分が知らないナシェリオの一面を垣間見た気がしてどうにもやるせない気持ちになる。
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