英雄の天意~枝葉末節の理~
「攻撃していなければ殺されていたか奴隷商人に売られていた」

 怯(ひる)むことなく応えたナシェリオから視線を外す。

 少しでも強く言えばすぐに謝っていた今までとはやはりどこかが違う。

 何が彼を変えたのだろう。

「……どうして、あんなことが出来るんだよ」

 混乱しながらも詰まる声を絞り出す。

 共に実戦経験などあるはずがないのに、兵士たちの企みに瞬時に気付き剣を手にしたナシェリオに驚駭(きょうがい)する。

 初めての出来事に未だラーファンの手は微かに震えているのを一瞥し、ナシェリオは頭(こうべ)を垂れた。

「少なくとも、私は全てが幸せだったという訳ではなかったから」

 ラーファンはそれに目を見開き眉を寄せて視線を外した。

 両親を亡くし、しばらく笑うことがなかった事を思い出し表情を苦くする。
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