英雄の天意~枝葉末節の理~
「ドラゴン退治の英雄と言われることがお嫌とみえる」

「やつが勝手に死んだだけだ」

 素っ気なく返してふいと顔を背けるこの厄介な英雄はまだ若いのだろうかと想察するも、ニサファが英雄の語りを聞いたのは幼少の頃だ。

 死から見放された英雄というのは本当らしい。

 ナシェリオは心持ち折れ曲がった背中を視界に捉え、いつまでも英雄を求める世間は残酷なものだとうなだれる。

 英雄に憧れてはいても、その英雄になろうと思った事は一度もなかった。

 それでも、一つの伝説として語り継がれる英雄の一人になってしまった事は、ナシェリオにとって大いに不本意なものだった。

 英雄になるべきはラーファンだったのだ。

 どうして私のような弱い者が英雄などともてはやされる。

 ──酒場は、再び訪れた人物に瞬刻(しゅんこく)目を移し、あとは見て見ぬ振りで賑やかにしつつも、その視線は時折ナシェリオを意識していた。

 ナシェリオはその視線から逃げるように被っていたフードをさらに深く被り、壁際の席を探す。




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