英雄の天意~枝葉末節の理~
 ──ラーファンの死を告げる事がとても重々しくその足取りは躊躇われたが、一刻も早く彼の両親に報告せねばという感情が馬の足を速めた。

 陽が落ちて、夕闇に響く虫の音を耳にゆっくりと進んでいたナシェリオは暗がりのなかにぽつりと明るい一帯を見つけて速度を上げる。

 そうしてたいまつの灯されている村の入り口を視界に捉え、ようやく戻ってきた嬉しさとラーファンを喪った哀しみにうなだれた。

 村を出たのはつい十日ほど前だというのに、今までの記憶が酷く昔のように思えた。

「おいあれ、ナシェリオじゃないのか?」

 夜の見回りをしていた青年が近づく影に気がついて目を凝らす。

「なんだって? 本当だ。おいみんな! ナシェリオが帰ってきたぞ!」

 見回りをしていたもう一人もそれを確認し、仲間の帰還を大きな声で知らせた。

 そうしてナシェリオは集まってきた村人たちに小さく笑みを見せて馬を下りる。
< 169 / 239 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop