英雄の天意~枝葉末節の理~

*咎なき罪人


 ナシェリオの胸の痛みは英雄の誕生に置き換えられ、休む間もなく村を挙げての宴が準備されてゆく。

 中央にある集会場には、幾つものテントが張られて多くの椅子やテーブルが運ばれる。

 そうして料理や酒や果物などが山と並べられた。

 広場全体を明るく照らす幾多の篝火(かがりび)は踊る人々の影をゆらゆらと地に映し、長老たちは村の安泰に喜び酒を酌み交わす。

 仲間の死に対する追悼は僅(わず)かも聞こえず、まるでそれすらも祝い事のように篝火から飛び散る火の粉が宴を彩った。

 ナシェリオはその光景がどこか異国にも思えて言葉も無く呆然と立ちつくした。

 その輪に加わる気にはなれず人々の様子を場の外から見ていれば宴の主役なのだからと引っ張り出されたり酒を勧められたり、ナシェリオはその度にラーファンのことを口にしようとするも全て遮られてしまった。
< 174 / 239 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop