英雄の天意~枝葉末節の理~
 さしもの耐えきれなくなり宴から離れ厩(うまや)で一人、馬の首をさする。

 家にいてもすぐに広場に引き戻され、独りになれる場所がここしか見つからなかったからだ。

 もとよりナシェリオは静かで落ち着いた場所を好み、日頃から村の祭りなどにもあまり長居する事はなかった。

 いつしか青年たちは酒で酔いつぶれナシェリオを探すことも止めてしまい、宴の意味すらも忘れたように騒いでいた。

 厩(うまや)は広場から離れた所にあるゆえ、宴の声はあまり届かずナシェリオはようやく落ち着く事が出来た。

「おまえをソーズワースと名付けよう」

 芦毛(あしげ)の馬は応えるように軽く唸り、己を名付けた主人をじっと見下ろす黒い瞳にナシェリオは柔らかに微笑んだ。

 しかしすぐ、その表情を曇らせる。
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