英雄の天意~枝葉末節の理~
 彼がどれほど外の世界に思いを馳せていたのか。

 自分たちがその足枷であることが歯がゆく、彼の背中を押すことの出来るきっかけはないだろうかと、そればかりを願っていた。

「彼女のためにも、少しくらい自分を赦してあげたらどうかしら。もっとも、今に至るまで友人だと思っていた女性の胸の内を知らされたからといって、どうしていいかなんて解らないでしょうけど」

 しかも、数百年も前に死んだ相手だ。

 そんな人間に義理立てさせてどうなるのかともエスティエルは思ったがしかし、それでもこの英雄を陽の当たる場所へ誘い出すにはと考えての言葉だった。

「解らない。どうしていいのかなんて」

 その表情にエスティエルはようやく、彼が前に進もうとはしていた事を知った。

 彼を縛り付けている亡霊はナシェリオ自身が作り出した幻影だ。
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