英雄の天意~枝葉末節の理~
──ナシェリオは、荒れ狂う波の向こうに横たわる巨大な黒い影を見据える。
凍える大陸ヒュプニクスを最も近くに捉えることの出来る場所から、視界に入る全てを窺うようにゆっくりと見渡した。
この潮の流れでは、あちらにたどり着ける可能性は限りなく低い。
空は気流が激しく乱れているが、その風を読むことが出来れば上陸は可能なはずだ。
それが困難な道程だということは解っている。
しかし、海から渡るよりは幾らかはましだ。
エスティエルの言葉は間違いだと思いたい。
考えていてもどうにもならないのだから、行って確かめるしかない。
ナシェリオは再びワイバーンの背に乗り、意を決して空に舞い上がった。
ヒュプニクスに近づくにつれ、気流は渦を巻くように激しくなってゆく。
上下左右の感覚はすでになく、強風に煽られるように一気に高くまで登る。
己の勘を頼りに風の流れを読みながら陸地はまだかと目を凝らす。