英雄の天意~枝葉末節の理~
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──あれは、珍しく渡り戦士が村を訪れた時のことだ。
渡り戦士は放浪者(アウトロー)とは違い、腕を請われる場所にしか赴(おもむ)くことはない。
然るに、こんな辺境にまで足を運ぶ渡り戦士は珍しかった。
その男は三十代半ばだろうか、硬いブラウンの短髪をかきあげ、どこか自信ありげに笑みを浮かべていた。
辺境の村にまでたどり着いた己に自賛でもしたいのかもしれない、男は一度深く息を吸い込むと胸を張って誇らしげに集落を見渡した。
村人たちは珍しい渡り戦士に羨望の眼差しを送り、その冒険譚を傾聴するべく丁寧に迎え入れ中ほどにある広場へと案内した。
たき火を囲み、オレンジに染まる村人の顔は物語を早く聞きたいとせがむように渡り戦士を見つめている。