英雄の天意~枝葉末節の理~
「魔獣の名は」

「ガネカルです」

 やや躊躇ったあと紡がれた名にナシェリオは顔をしかめた。

 それは、硬い毛と分厚い皮に覆われた獣──赤黒い体は獅子よりふた回りも大きく、突き出た口は強靱な顎と鋭い牙を備え無慈悲に獲物の骨をかみ砕く。

 鈍い紫の瞳は血に狂い、俊敏な動きと長い爪で生き物をことごとく引き裂いてゆくのだ。

 通常の剣で傷を負わせる事はこのうえもなく困難であり、ましてや、単独で闘うとなると倒せるかどうか疑わしい。

 稀に数匹でいる事があるが、基本的には一匹で縄張りを作って行動している。

 その性質は凶暴で、猛獣使い(ビーストマスター)でさえ飼い慣らせるか解らない。

 引き受けたという者たちに驚きを隠せない、一人も戻って来なかったというのは頷ける。

 勝てないと見越して逃げた者もいるかもしれない。
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