英雄の天意~枝葉末節の理~
「幼き頃からの友を犠牲にしました」

 告げられたものにナシェリオの心臓が大きく跳ねる。

 ニサファは驚いた様子の英雄を見やり、己の二の腕を強く掴む。

 その時の事を思い起こしているのか、眉を寄せ顔を伏せた。

「なまじ責任感の強い友でしたから、自分が囮になると」

 ニサファの妻はすでに病で他界し、子供らも立派に成長した。

 もう思い残すことはない。

 助けを呼ぶなら自分しかいない、残っている若者を犠牲になど出来はしない。

 友は、そんな彼の意思に感づいていた。

 共に生きた長き年月は、二人の間の言葉を不要としていた。

「わたしは、なんとかして助けを呼ぶために不可視の魔法を覚えようとしました。しかし、友はそんなわたしを諭したのです」

 見えなくなったからといって魔獣の嗅覚まで誤魔化せると思うのか。

 お前の匂いなどすぐに嗅ぎ取られて死ぬのがおちだ。
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