英雄の天意~枝葉末節の理~
「どうして──」

 立ち止まり、馬から下りる英雄を凝視する。

「ここから遠いのか」

「一日はかかります」

 質問に答えないナシェリオにいぶかしげな表情を浮かべ、手綱(たづな)を引いて馬をしゃがませる彼の背中を見やった。

「よく馴らされておりますな。なんと見事な葦毛(あしげ)か」

 灰色の馬を見たニサファが驚嘆する。

 艶やかな肌とたてがみは健康的で、引き締まった四肢は力強く地面を掴み風のように駆けゆく姿が脳裏に浮かぶ。

「馬の王からの贈り物だ」

 ナシェリオはニサファを馬の背に促し、しっかり乗った事を確認すると馬を立ち上がらせてその首をさする。

 その瞳がとても優しくてニサファは目を細めた。

< 45 / 239 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop