英雄の天意~枝葉末節の理~
*知らしめたもの
次第に風は治まり、草の擦れ合う音も騒がしさを沈めてゆく。
波の音も潮の香りもすでに遠のき、山々を遙かに望みながら草原を延々と進んだ。
ニサファがちらりと視線を降ろすと、余計な事は話しかけるなという雰囲気がナシェリオの全身から放たれていた。
「それほど英雄を否定なさるのは、自身を許せないことがあったからですかな」
このひねくれた英雄がひねくれただけの過去があるのは自明のことだが、あえてその傷に触れてくる老いぼれに鋭い一瞥を送った。
「これだから年寄りは嫌いなんだ」
人の心にずけずけと踏み込んでくる。
「貴方の方が年寄りでしょうに」
返されて複雑な表情を浮かべた。
ニサファはそれに多少の安堵を覚える。
冷たく接しようとはしていても、内から滲(にじ)み出る人の良さは古老に隠しきれるものではなく。
本心で世を嫌っているのなら、人の中に身を置く事を選びはしない。
それはやはり、人の温もりに触れていたい表れなのだろうとニサファは推し量った。