英雄の天意~枝葉末節の理~
◆三ノ章
*進めぬ記憶
ナシェリオは村に近づくにつれて記憶にある香りが少しずつ強さを増している事に気付く。
鼻につくような強さではなく、ほのかに広がる爽やかな香りは自然と心地よい気持ちにさせる。
「マレストか?」
「はい。ガネカルはこの香りが苦手だと聞き、少しでも助けになればと常に焚いているように言うておりました。幸いにもこの辺りには多く自生しており、干して粉にしたものを固めて香にしております」
マレストはどこの草原でも度々見かける草花で夏場には可憐な薄紫の花を咲かせる。
葉を乾燥させて粉にし、香辛料や香として加工する。
旬を迎える暑い季節には、摘み取った葉をそのまま使用しマレスト独特の感覚を楽しむ。
その冷涼感は清涼、解熱などの薬としても用いられ、様々な料理や酒にも使われている。