英雄の天意~枝葉末節の理~
「ああ、村は無事だ。わたしは間に合ったのだ」

 ニサファは、ようやく全てが解決した喜びに待ちきれず村の手前で馬を下りた。

 入り口を示す簡単な木製の門を見上げ、成し遂げたという達成感に体を震わせる。

「ようやく、ようやく終わったのだ。これで平穏に暮らせる」

 目に涙をにじませて煌々(こうこう)と灯されているたいまつを見つめる。

 そうして、客人を迎えるべく胸を張った。

「さあ、ナシェリオ様。こちらへ」

 しかし、振り返った先に居るはずの英雄の姿はなく、まだ謝礼を払っていないというのにどこに行かれたのかと周囲を見回す。

「ナシェリオ様?」

 吹き抜けてゆく緩やかな風の音だけが辺りを満たしていた。

 隠れるような場所もなければ、そんないたずらをする方(かた)でもないだろう。
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