英雄の天意~枝葉末節の理~
 彼は英雄など望んではいなかったのだろう。

 多くの物をその手で作り出し、年老いたのちに幸せだったと言い残して此岸(しがん、この世)から解き放たれ遙かな彼岸に悔いなく旅立つ──そんな人生を描いていたのかもしれない。

 死ぬことの出来ない恐怖など考えた事がなかった。

 終わりなき孤独に生き続けなければならない現実など想像すら出来はしない。

 人は果たして、そんなものに絶えられるのだろうか。

「永久(とこしえ)の英雄に安息の地を──貴方に安らぎの刻が与えられんことを」

 死ぬことは適わずとも、貴方の世にそれがありますように。

 ニサファは木彫りの小鳥を握りしめ、静かに祈りを捧げた。




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