英雄の天意~枝葉末節の理~
 とにかくも言い聞かせられる者を家にこもらせ、最後に自分たちが戻るはずだった。

 しかし獣は狂ったように動くもの全てに反応し、二人は逃げ遅れた村人を助けたがために、ついには命を落とした。

 油断が死を招いたのだと言われればそうだろう。

 だけれども、彼らの言葉に村の人たちが従っていれば両親が死ぬことがなかったのもまた事実だ。

 あのとき、ナシェリオは窓から二人が命を落とす瞬間をその目で見ていた。

 獣の牙に倒れた二人を視界に捉えたとき、足元から冷たい何かが這い上がり心臓を強く掴んだ。

 命は無感情に、無慈悲に摘み取られてゆく。

 そこに何があるかなど、この世界は考えはしないのだ。ただ結果だけが虚しく転がっている。

 二人の亡骸を前に、ナシェリオは叫べばいいのか怒ればいいのか解らなかった。

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