英雄の天意~枝葉末節の理~
 それでも、頬をつたい落ちる雫にようやく自分は哀しめばいいのだと静かに涙を流した。

 村人たちは二人に感謝し、残されたナシェリオには出来る限りの助けをすると約束した。

 遺体は高台に埋められて今でも石の墓標があるのだろう。

 ナシェリオは二人の墓に数度ほど顔を見せたが、湧き上がるやりきれない感情に訪れる事をぷつりと止めてしまった。

 誰かが悪い訳じゃない。

 誰かを責めたい訳じゃない。

 二人がそれを望んでいない事も充分に解っている。

 だから、悲しい記憶を呼び覚ます場所へは行かない。

 胸の中にある記憶だけを閉じこめておこうと決めたのだ。

 彼らは元々、放浪者(アウトロー)だ。死の覚悟は出来ていただろう。

 しかしナシェリオを残して逝く事に悔いはあったかもしれない。

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