英雄の天意~枝葉末節の理~
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「君と一緒に見たかったよ」
青年は灰色の馬からさざ波を立てる砂浜を遠くに捉え、広がる海に目を眇めた。
初めて海を眼前にしたとき、感動よりも先に突いて出たのは張り裂けるような胸の痛みだった。
お前の知恵など浅はかで何の役にも立たないと突きつけられて頽(くずお)れる。
憧れなど妄想だと言うように泡の如く軽く握りつぶされ、寒々と思い知らされる。
それから幾度となく目にし、渡った海は枯れた涙を蘇らせようと風を送るが、むなしさにしかなり得ない。
そうして一度、強く目を閉じて馬の首をさするとマントを翻(ひるが)し海を背に走らせた。
たどり着いたのは入り江の小さな港町、それでも活気に溢れていた。