続 音の生まれる場所(下)
ドイツ語で話す内容を、時々坂本さんが教えてくれる。それによると彼女は、日本に留学したがってるらしい。
「日本語の勉強したいんだって」
「日本語の…?」
(どうして…?もしかして、坂本さんの為…?)
ついそんなふうに思ってしまう。彼女がペッタリくっ付いてるから。
「小沢さんの会社に留学に詳しい人いない?短期でいいらしいんだけど…」
「ど…どうでしょう…?私は事務しかしてないから…三浦さんに聞けばご存知かもしれませんけど…」
優しい笑顔の上司を思い出す。いろんな雑誌で原稿書いてる彼なら、何か知ってそうな気がする。
「聞いてみてくれる?」
「はい…じゃあ月曜にでも…」
ドイツ語に訳してくれる。喜んだ彼女が振り向いて、いきなり立ち上がった。
「Thank you ! MAYUKO!」
フワッといい香りに包まれる。甘い花の香り。それに伴って、柔らかいものが身体に当たった。
(胸…おっきい…)
無言で彼を見る。さっきからこの胸の感触、散々味わってたよね。
「え、え…と、どうする?折角だから三人で食事でもしようか?」
私の視線に気づいて、坂本さんが焦る。焦るくらいなら、一定距離保てばいいのに…。
「すみません…今夜は家で食べるって言ってきたから…また次の機会に」
言ってる側から立ち上がる。メガネと帽子とマスクをつけ、二人を振り返った。
「ごめんなさい、薬切れるとクシャミ止まらなくなるの。お先に失礼します」
イヤな気持ち押さえ込んだまま、その場を離れる。店の外に出ると、坂本さんが慌てて追いかけて来た。
「…まさかとは思うけど、誤解してないよね?」
「……してないですよ…」
あんなにくっ付かれても、嫌がらない理由も分かったし。
「ごめんなさい、今夜は疲れてて。二人でお食事して下さい…」
メガネ越しに彼を見る。困ったような顔。私、この人を困らせてるの?
「小沢さん、重ねて言うけど、僕はユリアとは何でもないから」
何の為の念押し?そう何度も言われると、返って疑いたくなる。
「分かってますよ…昨夜も同じこと言ってたじゃないですか…」
店の中に残ってる彼女のことが気になる。チラッと視線を中に向けると、じっとこっちを見てる彼女と目が合った。
ドキッとするような鋭い視線。パッと目を逸らした。
「ユリアさん待ってるみたいだから、行ってあげて下さい。私は大丈夫なので…」
駅は目の前。時間も早い。
「…あっ、それから明日、練習休みます。花粉症ひどくてフルート吹けないから…柳さんに言っておいて下さい」
お休みなさい…と頭を下げる。背中を向けると急に抱きつかれた。
「気をつけて…お大事に」
左の頬に唇が当たる。きゅん…と胸が鳴る。でも、振り向けない…。
「ありがとう…坂本さんも…」
腕を擦ってお別れ。さっき会ったばかりで一時間も経ってない。
(意気地なしだな…私…情けない…)
もっと堂々としてればいいのに、どうしても尻込みしてしまう。ユリアさんが美人過ぎて、まともに顔も見てられない。
(それに何だか二人がお似合い過ぎて…。私よりもユリアさんの方が彼女みたいに見えるし…)
ヤキモチだって分かってる。坂本さんが誤解しないように念押しするのも分かる。でも、あれ以上一緒になんかいたくない。
(だって…シットでイライラして、怒鳴りそうだもん…)
「日本語の勉強したいんだって」
「日本語の…?」
(どうして…?もしかして、坂本さんの為…?)
ついそんなふうに思ってしまう。彼女がペッタリくっ付いてるから。
「小沢さんの会社に留学に詳しい人いない?短期でいいらしいんだけど…」
「ど…どうでしょう…?私は事務しかしてないから…三浦さんに聞けばご存知かもしれませんけど…」
優しい笑顔の上司を思い出す。いろんな雑誌で原稿書いてる彼なら、何か知ってそうな気がする。
「聞いてみてくれる?」
「はい…じゃあ月曜にでも…」
ドイツ語に訳してくれる。喜んだ彼女が振り向いて、いきなり立ち上がった。
「Thank you ! MAYUKO!」
フワッといい香りに包まれる。甘い花の香り。それに伴って、柔らかいものが身体に当たった。
(胸…おっきい…)
無言で彼を見る。さっきからこの胸の感触、散々味わってたよね。
「え、え…と、どうする?折角だから三人で食事でもしようか?」
私の視線に気づいて、坂本さんが焦る。焦るくらいなら、一定距離保てばいいのに…。
「すみません…今夜は家で食べるって言ってきたから…また次の機会に」
言ってる側から立ち上がる。メガネと帽子とマスクをつけ、二人を振り返った。
「ごめんなさい、薬切れるとクシャミ止まらなくなるの。お先に失礼します」
イヤな気持ち押さえ込んだまま、その場を離れる。店の外に出ると、坂本さんが慌てて追いかけて来た。
「…まさかとは思うけど、誤解してないよね?」
「……してないですよ…」
あんなにくっ付かれても、嫌がらない理由も分かったし。
「ごめんなさい、今夜は疲れてて。二人でお食事して下さい…」
メガネ越しに彼を見る。困ったような顔。私、この人を困らせてるの?
「小沢さん、重ねて言うけど、僕はユリアとは何でもないから」
何の為の念押し?そう何度も言われると、返って疑いたくなる。
「分かってますよ…昨夜も同じこと言ってたじゃないですか…」
店の中に残ってる彼女のことが気になる。チラッと視線を中に向けると、じっとこっちを見てる彼女と目が合った。
ドキッとするような鋭い視線。パッと目を逸らした。
「ユリアさん待ってるみたいだから、行ってあげて下さい。私は大丈夫なので…」
駅は目の前。時間も早い。
「…あっ、それから明日、練習休みます。花粉症ひどくてフルート吹けないから…柳さんに言っておいて下さい」
お休みなさい…と頭を下げる。背中を向けると急に抱きつかれた。
「気をつけて…お大事に」
左の頬に唇が当たる。きゅん…と胸が鳴る。でも、振り向けない…。
「ありがとう…坂本さんも…」
腕を擦ってお別れ。さっき会ったばかりで一時間も経ってない。
(意気地なしだな…私…情けない…)
もっと堂々としてればいいのに、どうしても尻込みしてしまう。ユリアさんが美人過ぎて、まともに顔も見てられない。
(それに何だか二人がお似合い過ぎて…。私よりもユリアさんの方が彼女みたいに見えるし…)
ヤキモチだって分かってる。坂本さんが誤解しないように念押しするのも分かる。でも、あれ以上一緒になんかいたくない。
(だって…シットでイライラして、怒鳴りそうだもん…)