続 音の生まれる場所(下)
メールも返してこない坂本さんと会うのは気が沈む。もしかしたら怒ってるのかもしれない…。
(ヤダな…あんなメール送らなきゃ良かった…)
自分がやった事を悔いる。今更だけど…。
金曜日に降り立った駅に到着後、工房に向けて歩き出す。鼻をグスグス言わせながら瞬きを繰り返す。メガネもマスクも全然役に立ってない。
「ごんにぢは。お邪魔いだしばす…」
社長の奥さん…つまり水野先生の奥さんが出迎えた。
「まあまあ。小沢さん、花粉症⁉︎ 」
「はい…ばあ…」
日本語おかしく聞こえるらしい。笑われた。
「今来てるお客さんもかなり面白い言葉遣うけど、貴女も相当ね」
どうぞ…と通されたのは作業場。
「今、細かい作業中だからこっちで待ってて下さい」
キィ…と重いドアを開けられ中に入る。
キーン…!と鳴り響く金物を切るような音。研磨作業中の水野先生が、火花を散らしてる。
そこから少し離れた場所で小さな部品を作ってる人がいる。真剣な横顔。でも、一人じゃない…。
(……ユリア…さん…?)
歌劇団の歌姫が作業着着て手伝ってる。褐色の瞳が見つめるのは指先。その動きを見ながら道具を手渡してる。細いヤスリみたいなものから順に、タイミングを合わせて。
(お客さんって…ユリアさんのこと…?)
驚いて立ち竦む。私の入る隙間なんか、これっぽちもないくらい寄り添ってる。この間よりももっと親密そうに…。
(ヤダ…なんで…)
背中向ける。こんな二人見たくない…。
「MAYUKO!」
大きな声が響いた。ギクリとして振り返る。歌姫がこっちを見てスマイル。そして、彼が振り返った。
ドキッ。
真面目な顔して近づいてくる。なんだか少し怒ってる…?
(ど…どうしよ…先ずはメールのこと謝るべき…?)
「あ…あの…」
ズズッと鼻を鳴らしながら声をかけようとしたら、彼が額を触った。
ビクッ!として思わず目を閉じる。
「熱いよ。熱あるんじゃない⁉︎ 」
言ってる側から額くっ付けてくる。
「な…なな…ないですっ!熱なんで…!」
いきなり何するのかと思った。離れていく額。メガネが少しズレてしまう。
「…今日症状ヒドイね…涙目になってる…」
怒るどころか心配してる。
「無理して来なくても良かったのに…」
座るよう手招きされた。
「でぼ、あの…ごごの場所知ってるの私だけで…。び浦さんも忙しいからっで…」
すっかり仕事の相手だという感覚なくしてる。ヤバイヤバイ。切り替えないと…。
「…おいぞがしい中、お時間を頂きばしてすびばせん。先日伺ったお話の原稿が出来ばしたのでおぼちしました。文面とお写真、ご確認ぐださい」
ゲラ手渡す。持っていたタオルで手を拭いてから、一枚一枚丁寧に見てる。初めて原稿渡した時と同じくらい真剣な表情。
相変わらず何にでも一生懸命だな…って思った。
(ヤダな…あんなメール送らなきゃ良かった…)
自分がやった事を悔いる。今更だけど…。
金曜日に降り立った駅に到着後、工房に向けて歩き出す。鼻をグスグス言わせながら瞬きを繰り返す。メガネもマスクも全然役に立ってない。
「ごんにぢは。お邪魔いだしばす…」
社長の奥さん…つまり水野先生の奥さんが出迎えた。
「まあまあ。小沢さん、花粉症⁉︎ 」
「はい…ばあ…」
日本語おかしく聞こえるらしい。笑われた。
「今来てるお客さんもかなり面白い言葉遣うけど、貴女も相当ね」
どうぞ…と通されたのは作業場。
「今、細かい作業中だからこっちで待ってて下さい」
キィ…と重いドアを開けられ中に入る。
キーン…!と鳴り響く金物を切るような音。研磨作業中の水野先生が、火花を散らしてる。
そこから少し離れた場所で小さな部品を作ってる人がいる。真剣な横顔。でも、一人じゃない…。
(……ユリア…さん…?)
歌劇団の歌姫が作業着着て手伝ってる。褐色の瞳が見つめるのは指先。その動きを見ながら道具を手渡してる。細いヤスリみたいなものから順に、タイミングを合わせて。
(お客さんって…ユリアさんのこと…?)
驚いて立ち竦む。私の入る隙間なんか、これっぽちもないくらい寄り添ってる。この間よりももっと親密そうに…。
(ヤダ…なんで…)
背中向ける。こんな二人見たくない…。
「MAYUKO!」
大きな声が響いた。ギクリとして振り返る。歌姫がこっちを見てスマイル。そして、彼が振り返った。
ドキッ。
真面目な顔して近づいてくる。なんだか少し怒ってる…?
(ど…どうしよ…先ずはメールのこと謝るべき…?)
「あ…あの…」
ズズッと鼻を鳴らしながら声をかけようとしたら、彼が額を触った。
ビクッ!として思わず目を閉じる。
「熱いよ。熱あるんじゃない⁉︎ 」
言ってる側から額くっ付けてくる。
「な…なな…ないですっ!熱なんで…!」
いきなり何するのかと思った。離れていく額。メガネが少しズレてしまう。
「…今日症状ヒドイね…涙目になってる…」
怒るどころか心配してる。
「無理して来なくても良かったのに…」
座るよう手招きされた。
「でぼ、あの…ごごの場所知ってるの私だけで…。び浦さんも忙しいからっで…」
すっかり仕事の相手だという感覚なくしてる。ヤバイヤバイ。切り替えないと…。
「…おいぞがしい中、お時間を頂きばしてすびばせん。先日伺ったお話の原稿が出来ばしたのでおぼちしました。文面とお写真、ご確認ぐださい」
ゲラ手渡す。持っていたタオルで手を拭いてから、一枚一枚丁寧に見てる。初めて原稿渡した時と同じくらい真剣な表情。
相変わらず何にでも一生懸命だな…って思った。