続 音の生まれる場所(下)
「青女で留学生の受け入れを行ってるそうなんですが…坂本さん分かりますか?」

お風呂上がり、やっと鼻づまりが治った。

「青女⁉︎ あのお嬢様学校のこと?」
「はい…三浦さんの奥さんそこの卒業生らしくて…。在学中、留学生とも付き合いが多くあったんですって」
「へぇー…」

驚いてる。まさか三浦さんの奥さんがお嬢様とは思わないもんね。

「お友達が大学の事務をされてるからいつでも聞ける状況にあるみたいで…良かったらユリアさんに言ってみて下さい」
「うん…。…でも青女か…そんな格式高いとこでユリアに似合うかな…」

心配してる。大事なお客さまだから無理ないか。

「変な所よりいいんじゃないですか?大和撫子教育してるって話聞くし…憧れてるんでしょ?」

お茶やお花、礼儀作法に至るまで、一通り教えるって聞いたことある。

「日本語教育にも熱心だから、もってこいだと思いますよ」

昼間使ってた言葉を思い出す。あれじゃきっと誤解される。

「まあそうだね。本人に聞いてみるよ」

ありがとう…って。大したことしてないのに…。

「じゃあまた連絡下さい…」
「あ、ちょっと待って」

ドキッとした。メールでは素っ気ないから電話もそうなのかと思った…。

「今鼻つまってないね?調子いい?」
「…はい…お風呂上がりだから鼻通ってるんです。目も痒くないし…」

スースー鼻呼吸する。それを少し笑われた。

「だったら日曜日は大丈夫そう?僕の友人が是非とも君に会いたがってるんだ」
「昼間言ってた人のこと?」
「そう。ホントは金曜日に会わせたかったんだけど、向こうの都合がつかなくて。だから日曜日は必ず会いたいって…」
「…どんな関係の人なんですか⁉︎ 」

つい聞いてしまう。勿体ぶられるとロクな事考えないから。

「男の人?女の人?」
「内緒。会って驚かせたい」
「えーー⁉︎ 」
「だから体調整えといて。じゃあね」
「あ…」

こっちの返事にも待たずに電話切られた。

「…っもう!勝手なんだから!」

電話に向かって呟く。坂本さんの悪い癖。なんでも勿体ぶる。

「誰なんだろ…会わせたい人って…」

知らないドイツでの交友関係。想像するしかないけど、やっぱり気になる。

(性別くらい教えてくれてもいいのに…)

ポスン…とベッドに倒れ込む。私の知らないドイツでの生活を知ってる人がユリアさん以外にもいる…。

(複雑…)

自分も話してない事があるのに、そこにもってきてユリアさんが現れたり、会わせたい友人が現れたり。

(いろいろ聞きたいと思うのになかなか聞けないし…坂本さんは何も気にならないの…?私のこと…)
< 18 / 72 >

この作品をシェア

pagetop