続 音の生まれる場所(下)
三年間の自分を振り返る。何も聞かないってことは、もしかして気づいてるってこと…?

(柳さんとのこと…聞いたりした…?)

それだけは絶対にないと信じたい。話すなら自分の口で。呆れられても、その方が悔いがない。

(日曜日…思いきって打ち明けようか…)

自分の事を話したら、彼も話してくれるかもしれない。ドイツでどんな事があったのか…。


週末が来るのをドキドキしながら待つ。その間、坂本さんからは留学の話を進めてほしいという連絡しかなかった。
そして土曜日。いつものように練習はお休み…。

「…ごべん、言っどいで。今日も無理っで…」

我ながら情けない。何日フルート吹いてないだろう…。

「大変だな。大事にしろよ」

シンヤが気遣ってくれる。その後、坂本さんからメールがきた。

『練習休むってシンヤから聞きました。体調どう?明日は大丈夫?』
『大丈夫です。這ってでも行きます!』

例によって三重ガードの怪しい風貌になるとは思うけど。

『じゃあ開演前に待ち合わそう。夕方5時にこの駅で』

「んっ?」

これって職場の最寄り駅じゃない。…どうして?

「あっ、ぞうが!」

思い出した。県の公会堂って、職場の反対側だ。

「それで、ユリアさんとばち合わぜてだんだ…」

『分かりました。楽しみにしておきます!』

少し気持ち明るくなってくる。歌姫との待ち合わせはやっぱりただの偶然だったみたい。

(良かった…変に誤解するとこだった…)

何もかも話し足らない感じ。ホントはもっと沢山話さなきゃいけないのに…。

「でぼ、この調子じゃね…」

常に鼻声で話しづらい。早く時期が過ぎないと、外出すらもままならない。

(フルート吹きたいな…坂本さんと一緒に音重ねたい…)

日本にいるのにそれすらも出来ない日々。なのに彼の周りには美人の歌姫がウロついてて、私には出来ないことをばかりを見せつける。

(工房で寄り添って仕事するなんて、私にはムリだもん…)

違和感なくて、呼吸ピッタリだった。あんなふうに楽器作りを手伝いたいけど、私は何も知らないし、自信もない…。

「…はぁ」

あんな美人が日本に留学か…。気が滅入るな…。
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